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 このノートブックは、深見友紀子が原告となった裁判・最高裁パートナー婚解消訴訟の補足説明としてスタートしました。裁判の内容を知らないと理解しにくい文章があると思いますので、興味のある方は、下記サイトまでアクセスしてくださいますようお願いします。
http://www.partner-marriage.info/

 2009年以降のノートブックは、「ワーキング・ノートブック」に移転しました。

大学人の二足のわらじ

 文化人類学者で東大教授の船曳建夫さんは仕事と家庭について『大学のエスノグラフィ』(有斐閣)という著書のなかで次のように書いています。長いですが、引用します。

 家庭は研究者の墓場か(p.187)

 研究に家庭は邪魔です。ましてや子育てなど、重荷です。これは結論が出ています。研究者は24時間働いていたいのが基本ですからそれらに差し障ることはみな不要です。それで言えば、家庭は研究者の墓場でしょうか。
 ・・・かつて私は書斎がなかったのと、靴を履いていないと頭がゆるんでものが考えられないため、一週間の内6日間大学に出てきていました。しかし、ある人が「いつ電話かけても大学にいるね、それだと使われちゃうよ」と忠告してくれた・・・・。それでも、大学に行くパターンを崩さなかったのは、自宅に書斎がなかったと、というインフラの問題もさることながら、家庭に帰ったら四人の子どもの育児、という問題があったためです。
 ビジネスや他の多くの仕事をする人にとって家庭は心の安らぎの場であったり、子どもがあとを継ぐことで自分自身の仕事が強化されたり、とよい面があります。それに対して宗教と学問(芸術もかなりの点で)、その本質上、世俗の快楽や家庭から遠いのですね。手短に言えば、研究は高度の集中力と持続力を必要とし、その核心部分には孤独な作業が来る。「家庭生活」や世俗のつきあいはじゃまになる。
 そしてこれらの仕事は家庭の中で子に継がすようなものではない。書斎を渡せば子が学者になれるわけではないし、絵筆を父から受け継げば画家になれるようなものではない。親から才能を受け継いで親のように学者や芸術家になっている人もいますが、それは宗教や学問といった仕事の、本来の性格から来ているのではないのです。
 ・・・フェルマーの定理に解答を与えたケンブリッジの数学者は既婚者でしたが、その問題を考えている七年間、家庭のこと以外すべてを忘れて没頭した、との発言が伝えられていました。それに対して、彼を知る日本の数学者が、彼に限ってそんなことはない、家庭だって忘れていたに決まっている、と発言していまいしたが、研究者にとっての家庭の問題を言い当てています。
 それでも、・・・研究者が家庭を持つのは、人は研究のみにて生きるにあらずと思うからでしょうし、結婚するときにはどうにか両立できるよと高をくくってしまうからです。そして、この問題、結婚だけでしたら、夫婦そろっておしどり学者で、すこぶる生産性が高くなる場合がありますから、問題は子ども、育児です。
 ・・・実はこの問題は、ジェンダーの問題なのです。かつて研究者といえば男性であることがふつうであったときには、男性が独身を続けることで、時には家庭を持たぬゲイの関係によって性愛の世界と両立させつつ解決していたのですが、現在は女性研究者の問題、またどちらが研究者であれ、家庭での男(夫)・女(妻)のジェンダーの問題なのです。
 ・・・研究と家庭の二足のわらじは、大学が男女の世界になるにつれ、既婚者において複雑さと深刻さを増しつつ、他方で、結婚しない、子を作らない選択が、かつての男性のみの大学世界でもそうであったと同じように拡がると見えます。いまは大学のみならず、「家庭」も大きく変容しつつあり、その2つのあいだの新たな二足のわらじとして問題が変容してきています。

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 私は2001年9月に今のパートナーSさんと知り合いました。
 「パートナー婚解消訴訟」の相手と破局して4ヵ月後のことです。16年の関係が突然終わって打ちひしがれていた私にとって、神様が与えてくれた人なんです。ありがたい!!という気持ちは4年経った今も変わっていません。

 私は自分が産んだ子ども2人とは同居していないので、Sさんとおしどり学者で、すこぶる生産性が高いということになります。それに、私の研究分野は、船曳さんの学問分野のような東大・京大を頂点とするヒエラルキーからは外れた、所詮「ウンパッパッ」←(これ、子どものリズム打ちで、ウンが四分休符、パッが四分音符デス)の世界です。それでも、昨日15時間も格闘したのに、たった5枚の論文が仕上がらないどころか、満足のいく構成さえできませんでした。さらに別の9枚もあるんです。
 そんなわけで、8月15日までにやるはずだった水野紀子さんのパートナー婚解消訴訟の解説 (「平成16年度重要判例解説」(ジュリスト臨時増刊(第1291号)6月10日号、有斐閣)に対する感想はちょっと延期することにします。

 長男を産む際に裁判相手の取り交わした「私は産むのみ。義務としては育てない」という内容の公正証書。
水野さんが公序良俗に反する可能性があると指摘したものですが、34歳でやっと修士を出た私は、産むだけならば自分の研究生活は崩れないと思ったのです。

http://www.partner-marriage.info/c9.html

 その計算に狂いはありませんでした。昨日も三食ともSさんに作ってもらったのに、たった5枚の論文が書けないのですから・・・。
 
 船曳さんの著書によれば、奥さんに秘書をさせている男性研究者も大勢いるらしいですね。
 子育てのシャドウワークを全部妻にやらせて、子どもの発達についての研究を男性研究者がいます。
 私だって、あんな公正証書を取り交わさず、シャドウワークをすべてやってもらって、自分の子どもたちに音楽レッスンだけをしたかったなぁ。